ロジバン語の文法スケッチ

ロジバン語の特徴

概略

ロジバンは、人工言語の一つである。
ロジバンが目指しているのは、コンピュータ言語にもなり得るような、曖昧さの無い、論理的な言語である。ロジバンの論理性を代表する機能語が、終端子である。ロジバンには、関係節や修飾節において、節のはじまりを示す語と、終わりを示す語の、両方が存在する。この機能語があるために、ロジバンの文は、多義的にならない。
ロジバンは、論理性を追求した弊害で、あらゆる点において複雑さを有する。冠詞は10つ以上もあり、それぞれ違った意味を持つ。また所有表現は、譲渡可能と譲渡不可能とを区別する。冠詞と数詞とを組み合わせる事で、非常に正確にものの数を示す事ができる。
ロジバンは、類型的に孤立語的であり、語が形態変化をしない。音素は比較的少ない。以下本文にて、例文の幾つかをLojban For Bigginers日本語訳から引用する。

音声・音韻

ロジバンは公式の文字を持たないが、このレポートでは仮にラテン文字を使用する。ロジバンの音素は、異音を多く持つ。これは、母語による音韻体系の相違を緩和させる目的による。アクセントは、後ろから二つ目の音節におかれる。

母音 ※発音記号は割愛

母音は以下である。
/a/, /i/, /u/, /e/, /o/, /y/
/y/は、固有名詞もしくは、複合語で同じ子音が連続するのを防ぐ為のみに使用される。

子音 ※発音記号は割愛

子音は以下である。
/./, /m/, /f/, /v/, /p/, /b/, /s/, /z/, /c/, /j/, /t/, /d/, /k/, /g/, /’/, /x/, /l/, /n/, /r/
/./と/'/は、母音と母音の間にのみ出現する。

形態法

ロジバンの語は、基本的にCVCCV若しくはCCVCVの形になっている。この形に当てはまらない語は、機能語、固有名詞、もしくは複合語である。 機能語は、一般に2から3文字で構成され、連続子音を含まず、母音で終わる。固有名詞は、子音で終わる。複合語は、子音で始まり、連続子音を含み、母音で終わる。 ロジバンにおいて、語は、機能語と固有名詞を除けば、すべて同じ振る舞いをする。

名詞

ロジバンの語は、動詞が基本となっている。名詞は、語に冠詞を付ける事によって作られる。
例えばklamaは「行く」という意味だが、これに冠詞leを付加すると、「行く人」すなわち「旅行者」の意味となる。なぜ「人」という意味が付加されたかというと、klamaの主語におかれる名詞は、「行く」の行為者、すなわち「行く人」を示すためである。 klamaから派生させて、「行く場所=目的地」や「行く方法=乗り物」を示す事もできる。
詳しくは後述するが、ロジバンの動詞は、目的語を複数とる。klamaの場合、S klama [行き先] [出発地] [経路] [方法]というように、目的語は4つ取られる。le klamaは、特に指定が無い為、Sと関連付けられ「行く人=旅行者」を示す。もし、目的語と関連付けられたklamaを表現したい場合、leとklamaの間に、機能語を入れる必要がある。機能語は、se、ta、ve、xeである。seは一つ目、taは二つ目、veは三つ目、xeは四つ目の目的語が関連付けられる。例えば、le xe klamaであれば、四つ目の目的語すなわち「方法」が関連付けられ、「移動の手段=乗り物」を示すこととなる。

人称代名詞

Φ単数双数複数複数・群
一人称mi mi’o(包含)ma’a(包含)
mi’a(除外)
mi
二人称do, kodo’odo

ロジバンの人称代名詞は、どの格として使用されても、形態変化しない。 二人称単数のkoは、命令文でのみ使用される。「複数・群」とは、複数の人をグループと見なした場合を意味する。二人称複数のdo’oは、「あなたたち」の構成員の全てが眼前に居ない場合に使われる。「あなたたち」の構成員の全てが眼前に居る場合、「ro do」が使われる。二人称双数は空欄になっているが、あえて表現する場合、「re do」として、数詞の2を付けて表現される。
ロジバンの三人称は、特殊である。ロジバンでは、三人称を使う代わりに、登場人物をその場で命名していく。命名には、goiを使用する。ラベルとしては一般に、ko’a、ko’e、ko’i、ko’o、ko’uが使用されるが、好きに命名して構わない。

la mari,as. goi ko’a klama la .osakas .i la kanas. nelci ko’a
マリア goi ko’a 行く 大阪 文の切れ目 カナ 好き ko’a
マリア(以下ko’a)は大阪へ行く。カナはko’aが好きだ。

はじめの文章で、マリアがko’aと名付けられている。そして、次の文章の中で、マリアはko’aと表現されている。
もう一つ、既出の語を指し示す手段として、頭文字を使用する手段がある。ロジバンでは、一文字の語が文に出てきた場合、それは、その文字で始まる既出の語を指すことになる。例えば「マリア」は、特に断り無く、次の文の中でmと表現できる。
他にも、既出の語を指し示す手段がある。le go’iは、前の文の主語を示す。そして、le se go’iは、前の文の二番目の目的語を示す。seがte、veになると、それぞれ、三番目、四番目の目的語を示す事となる。また、riは、直前の名詞、raは、直前ではなくやや離れた名詞、ruは離れた名詞を指す。
再帰代名詞としては、vo’a、vo’e、vo’i、vo’o、vo’uがある。文の中の主語であればvo’a、目的語の一番目であればvo’e、目的語の二番目であればvo’i、目的語の三番目であればvo’o、目的語の四番目であればvo’uが使用される。

統語法

ロジバンは孤立語であるため、語順が重要になる。しかし語順は、標識を付加する事によって、自由に移動する事ができる。また、時制や相については、時制や相を示す語を加える事によって表現される。空間も、時制や相の仲間として扱われる。

語順

ロジバンの語順はSVOもしくはSOVである。ロジバンの動詞は目的語を複数取るが、Vは、Sより後であれば、目的語の前にも、目的語と目的語の間にも、目的語の後にも置くことができる。 動詞は、語によって0〜4つの目的語を持つ。目的語の順序は、語によって決められている。以下例である。

la mari,as. klama la toki,os. la .osakas. la yamanacis. le karce
マリア 行く 東京 大阪 山梨 車
マリアは大阪から山梨を通って東京へ車で行く

動詞klamaは、目的語を4つとっている。laやleは冠詞であり、前置詞ではない。目的語の位置を入れ替えると、以下のように意味が変わる。

la mari,as. klama la .osakas. la yamanacis. la toki,os. le karce
マリア 行く 大阪 山梨 東京 車
マリアは東京から山梨を通って大阪へ車で行く

このようにロジバンでは、目的語が何番目に位置しているかによって、その目的語と動詞との関係性が決まる。klamaの場合、一つ目の目的語は行き先を、二つ目の目的語は出発地を、三つ目の目的語は経路を、四つ目の目的語は方法を示す。目的語の順序は、語それぞれに決められている。klamaと、もう2つの語を、例として以下に示す。

S klama [行き先] [出発地] [経路] [方法]
→Sは[出発地]から[経路]を通り[行き先]へ[方法]で行く
S vecnu [品物] [人] [価格]
→Sは[人]に[価格]で[品物]を売る
S pritu [基準点] [照合相手]
→Sは[基準点]が[照合相手]を向いているときの右

目的語の順序は語ごとに覚える必要があるが、おおむね、使用頻度の低い概念ほど後ろに来やすい。また、一般的な言語において、目的語とされるような語は、一つ目の目的語に入る事が多い。
もしも、目的語として指定された関係性では不足で、新しい関係性を組み入れたい場合、目的語を勝手に増やす事は出来ず、前置詞句を足す必要がある。
いくつかの目的語を明示しない場合、不要な目的語の位置に、zo’eを入れる事ができる。zo’eは、文中でその語が重要でない事を示す。

zo’e klama la yamanacis. zo’e zo’e le karce
zo’e 行く 山梨 zo’e zo’e 車
車で山梨へ行く

なお、目的語としてある位置に名詞を入れたあと、それ以上目的語を入れない場合、以降のzo’eは省略する事ができる。

la mari,as. klama zo’e la yamanacis.
マリア 行く zo’e 山梨
マリアは山梨から行く

「山梨」の後には、[経路]と[方法]の目的語が入るはずであるが、ここに入るzo’eは、省略する事ができる。
目的語を省略する際、zo’eを使う方法の他に、目的語標識を使う方法がある。目的語標識には、fe、fi、fo、fuがある。それぞれ、続く名詞が、二番目の目的語、三番目の目的語、四番目の目的語、五番目の目的語である事を示す。

la mari,as. klama fi la yamanacis. la tokios.
マリア 行く fi 山梨 東京
マリアは山梨から東京を通って行く

「山梨」にfiが付加される事で、「山梨」が、三番目の目的語だという事が示された。なお、「山梨」の次におかれた「東京」には目的語標識が付加されていないが、「山梨」が三番目であった為、「東京」は自動的に四番目、すなわち経路を示すこととなる。このように、目的語標識で位置が示された後の語は、そこからまた順序通りに数えられる。

語順の変更

ロジバンの語順は、機能語を使用する事で自由に入れ替える事が出来る。目的語の位置を示す標識はfe、fi、fo、fuであった。これに加え、主語を示す標識faがある。標識を付加すれば、語がどの位置に行っても、それが動詞とどのような関係性にあるのかを判断できるため、語順の変更が可能になる。

klama fi la yamanacis. fa la mari,as.
行く fi 山梨 fa マリア
マリアは山梨から行く

動詞klamaは、基本的に主語より前に出ることは出来ないが、この場合、主語がfaによって主語と分かるようになっている為、例外的に、前に出ることが出来ている。
語順の変更のもう一つの方法として、転換の機能語を使う方法がある。転換の機能語は、se、te、ve、xeである。これらは動詞の前に置かれる。seは、主語と、目的語の一番目を交換する。teは、主語と、目的語の二番目を交換する。veは、主語と、目的語の三番目を交換する。xeは、主語と、目的語の四番目を交換する。交換された主語は、省略される事が多い。

疑問文

諾否疑問文は、xuを加える事によって作られる。語順などは変わらない。xuの位置は、文中のどこでも構わないが、文頭に置かれる事が多い。

xu do klama(あなたは行きますか)

名詞を尋ねる疑問詞疑問文は、maによって作られる。名詞の入るはずの場所にmaを入れる事で、そこに入る名詞が何であるかを相手に尋ねる。

la mari,as. klama la toki,os. la .osakas. ma le karce
マリア 行く 東京 大阪 ma 車
マリアはどこを通って、大阪から東京へ車で行くか?

動詞を尋ねる疑問詞疑問文はmoによって作られる。

la mari,as. mo la toki,os.
マリア mo 東京
マリアは東京とどのような関係性があるか?

数を尋ねる疑問詞疑問文はxoによって作られる。

xo lo prenu cu klama ti
xo 冠詞 人 動詞標識 行く ここ
何人の人がここに来るか?

言い間違いの訂正

ロジバンで言い間違いを訂正する場合、訂正する語を正確に示すことが求められる。語を示すには、二つ方法がある。 siは、直前の一語を訂正する際に使用される。siを重ねる事で、いくつの語を訂正するか、指定する事ができる。例えば最後の4語を訂正したい時、si si si siと言った後に、訂正後の語を伝える。  もう一つの方法は、saを使用する方法である。saは、あるまとまった句を、別の句に置き換える際に使用される。saの後に、句のはじめの語を入れる事で、その語からはじまる句全体を取り消す事ができる。

詳しいwebサイト

Lojban For Bigginers日本語訳(2001)Robin Turner, Nick Nicholas inserted by FC2 system